Moiz's journal

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アメリカの医療費と医療保険について

日本の医療費は安いですね

こんなエントリーが話題らしい
はてな匿名ダイアリー「医者の権益確保システム凄すぎワロタ」
最初の部分、整形外科に行ってレントゲンとって診察受けて処方箋もらって医療費合計 10,750円、というのを見て日本の医療費は安くていいなあ、などと思ってしまった。アメリカだといくらくらいかかるんだろうと思って、去年の医療費のレシートを探してみたら、指のレントゲン写真だけで$160ほどだった。日本円だと1万6千円ほど。ちなみにこれは保険会社による調整が入った後の請求額で、ラボからの元々の請求は$200(約2万円)を越えていた。ようするに保険会社が値切ってくれてこの値段だ。高いですねえ。MRIなんかうけたら数百ドルの請求はごく普通。救急車呼ぶような事態だと数十万円かかったりする。
上記の記事だと日本でのレントゲンの部分の費用は1570円。私の場合の十分の一ですね。その辺の写真館で証明写真撮ったってもっと高いかも知れない。さらに国民皆保険で、ほとんどの人は3割負担。保険料は別途それなりの額かかるとはいえ、リーズナブルな価格だと思う。

アメリカの医療費と保険

さて、アメリカの医療費や医療保険はどうなっているのかというと、実はややこしすぎて現地で住んでいる人でも専門家でも無い限りわけがわからない。医療保険の大枠としては高齢者向けのメディケア、低所得者向けのメディケイド、その他一般向けの民間保険があるわけだが、民間保険はさらにいくつも細分化されていて、さらに州によっても違っていたりして、もはや個人には全体像を理解するのは不可能だ。
そんな訳で、ここでは個人的に見知った範囲でアメリカの医療費や医療保険についての状況をかいて見ようと思うが、ブログ主は医療や保険については素人であり、以下は私の限定的な個人的な経験・体験談に過ぎず、内容についての細かい正確性までは保証できませんし、変化する制度にあわせてアップデートすることもできません。もし最新の正確な情報が必要であれば、公的機関、もしくは保険会社、コンサルタント、雇用先などに確認していただくことをおすすめします。

民間の医療保険

アメリカでは保険に加入する場合、個人的に保険に入るのと、雇用主を通して保険に入る二つの方法がポピュラーだ。特に雇用主を通して加入すると保険料が安かったり、雇用主の援助がでたり、病歴を問わず加入できたり、といった利点が得られる事が多く、可能な場合はこちらを選択することが普通だろう。
私自身はアメリカでは二つの会社で働いたが、業界が同じ事もあり、オファーされる保険の種類も似通っていた。保険の内容は医療保険、歯科保険とわかれており、他にメガネやコンタクトレンズ用の保険もあったりする。
医療保険のオプションで一般的なのはPPOとHMOだ。HMOは毎月それなりの保険料を払う代わりに、病院にかかる際に支払う医療費は少ない。ただし、診療できる医療機関、受けられる治療の種類にはさまざまな制限がかけられる。PPOの方は毎回病院に払う医療費は高いが、自由度が高く、毎月の保険料もHMOよりは安いことが多い。特にHMOの保険の制限は何年か前にマイケルムーアの映画で取り上げられたこともあり、日本でもそれなりにしられているのではないだろうか。この項で取り上げたいのは、もう一つの新しいプランHDHPだ。

医療費の実際 - HDHPの場合

最近現れたHDHPとはPPOのバリエーションの一つで、High Deductible Health Planの略。日本語では何というのかわからないが無理に翻訳すれば、高免責額医療保険プランとでもなるだろうか。その名のとおりDeductible(免責額)が高い、つまり病院での自己負担の額が多い代わりに、月々の保険額が安い医療保険だ。さらにこのプランのみ、後述するHSA(Health Saving Account)と組み合わせる事ができる。
さて実際にこのプランに入るとどうなるのだろうか?
まず、毎月の保険料は前述の通りHMOや通常のPPOに比べると安い。トータルのプレミアムはそれほど違わないらしいが、雇用主の援助がある場合、各個人が払う額は数分の一に下がるケースがある。その代わり、規定の免責額(プランや条件によって違うが数十万円程度)に到達するまでは、各自が医療費を全額支払う必要がある。
患者にとっては実際にはどんな感じになるだろう。ちょっと風邪を引いたりして医者にかかるとすると、かかりつけ医がいない場合、まずは保険のネットワーク内の医者を探す必要がある。PPOやそのバリエーションのHDHPはネットワーク外の医者の診療も認めるが、その場合免責額があがったりと患者の自己負担額が増えるのでなるべくネットワーク内の病院を使った方が良い。ちなみにHMOはそもそもネットワーク外での診療を認めていないのが普通だ。
つぎはそのかかりつけ医に予約して、診療を受け処方箋を書いてもらうことになる。安くて数十ドル、高くて数百ドル、というところだろうか。保険に入っている場合、請求書は一旦保険会社に行き交渉後に改めて自分の所に請求書が送付されるので、その額を振り込むことになる。その年度の医療費の総額が免責額に届くまでは全額自己負担だ。自分で全額払うのなら保険会社には事後に連絡すればいいんじゃないの?とも思うが、かかった医療費は免責額に向けて積み上がっていくので保険会社としてはチェックする必要があるし、加入者にしても保険会社のチェックが入ることで医療費が減額されるのでやはり良いことなのだ。場合によっては数百ドルの請求が数分の一に減ることがあり、こんなときは保険会社の存在がとても有難い。また、アメリカの病院では検査などは別の機関が行うのが普通なので、間に保険会社でも入らないととても把握しきれない。
ともかく、こういった理由で、病院で医師に見てもらった後は事務処理などが無い限り窓口にも行かずにそのまま帰ってしまうことができる。最初は食い逃げみたいで妙な感じだったが次第になれてきた。
処方箋を書いてもらった後は薬局に行って薬を出してもらうわけだが、個人負担額はまたプランによって違ったりする。さらに、しばらくたつと保険会社から連絡のあったメールオーダーの薬局(薬の通販)から連絡があって、そちらに切り替えをすすめられたりする。おそらく通販の方が保険会社の負担が少ないからだろうと思う。
さて運悪く重病や大けがで多額の医療費がかかった場合はどうなるだろう?もし医療費が免責額を超えた場合、保険がほとんどのコストをカバーする。さらに、おそらくプランにもよるのだろうが個人負担に上限を認めていることも多く、その場合上限を超えた医療費はすべて保険会社の負担だ。(もしかすると雇用主も一部負担しているのかもしれない。)そんなわけで万一大病を患ったり大けがをしても、医療費で破産する事態は免れることができる。健康な人がHDHPに入る理由と言えば、こういった万一の場合に備える、というのが第一の理由だろう。
さらに、多くの場合は予防医療は個人負担が無料の事が多い。たとえば年に一度の健康診断や予防接種は大概は全額保険でカバーされる。予防接種が無料になるあたりは逆に日本の医療保険よりも優れているといえるかもしれない。

HSA (Health Saving Account)

このHDHP加入者だけに認められた制度がHSA(Health Saving Account)だ。これは毎月一定額を医療専用口座に積み立てておくことが出来る制度で、加入者への利点は積み立てが税引き前だということだ。アメリカの税金は日本に比べて高いので、これはかなりありがたい。たとえば、トータルの税率が30%だとしたら、実質3割引で医療費が支払えることになる。さらに雇用主によってはこの口座に一定額を給与とは別に振り込んでくれることがあり、そんな場合の実質医療費負担はさらに下がる。
以前からFlexible Spending Accountという税引き前の積み立てることの出来る口座の制度はあったのだが、こちらの場合積み立てた額を使えるのはその同じ年のみという制限があった。つまり、たとえ口座に$5000(約五十万円)残っていても、その年に使い切れないと、次年度には綺麗になくなってしまうのだ。それに対してHSAは口座の残高を次年度以降に持ち越しができるというのが大きなメリットだ。デメリットはもちろん医療費以外には使えないこと。場合によっては国税庁の監査が入ることもあるらしく、その場合HSAから引き出した額がすべて医療費に使われた事を証明しなくてはならない。(メンドウクサイ)

まとめ

以上、個人的に経験した範囲でアメリカの医療費・医療保険についての体験談を書いてみた。こうしてみると、日本の医療費と医療保険のシンプルなわかりやすさが懐かしい。もちろんアメリカの医療機関にもいいところがあって、例えば私がいった病院はどこも日本の平均的な病院よりもはるかに患者向けのサービスがよかった。個人病院でも革張りのゆったりとした椅子や無料のコーヒーのある広い待合室は普通だし、病院の先生が各患者に向ける時間も長かった。ただ、それは私が比較的良い地域の病院にしか行ったことがないからかもしれないし、こういった豪華な設備も医療費を押し上げる要因になっているのかもしれない。第一、オバマケアがまだ施行されていない現在の制度では、医療保険自体に加入できない人が多数存在しているし、保険に加入できても全員が上記のようなすべてのメリットを享受できるわけではない。私自身も、現在は自分の加入している保険に満足しているが、先々転職などした場合どうなるかはまったくわからない。
ついでに言うと、アメリカでは医療保険プランは毎年めまぐるしくアップデートされて加入者が変更を確認するのも大変なほどだし、オバマケアが本格的に運用されればさらに大きな影響があるだろう。そんな変化を追いかけること自体が各個人にとっては大きな負担になっている。(毎年年度末になると、みんな来年の医療保険はどうしようと頭を悩ませるのです。)そういう意味でも、日本の医療制度ってわりといいんじゃないの?という気がする。

最後にくどいようですが、私は医療・保険などに関しては素人であり、上記の記事はたんなる個人の経験・体験談です。したがって、正確性や一般性は保証できません。最新の正確性が担保された情報が必要な方は、公的機関・雇用主・保険会社などから正しい情報を入手いただくことをおすすめします