はじめに
今年の前半、初期の大腸がん(直腸がん)になり直腸の一部摘出手術を受けた。
幸いなことに一回の手術で治療は終了し、今はほぼ通常の生活にもどっているが、自分にとっては生き方を見直す契機になる大きな出来事だった。
病気になってから調べたのだが、大腸がんの治療自体は日本でもアメリカでも大きな差はないようだ。しかし、アメリカの医療というと日本人にとってはどうしても高額、理不尽な保険制度、などといったイメージがあると思うし、アメリカでがん治療を受けたと聞けばいったいいくらかかるのか、と疑問に思う方も多いと思う。
このエントリーではそういった点についてまとめてみようと思う。
なおこのブログエントリーはあくまで私個人の経験についてまとめたもので、アメリカのがん治療の全体像を反映するものではありません。またブログオーナーは単なる患者であり、医療については素人なので、内容の正確性については保証できかねます。
がん治療の費用
がん治療および検査にかかった費用のうち大きなものを表にしてみた。
内容 |
請求額 | 保険会社が認めた額 | 自己負担額 | 説明 |
内視鏡検査 (病院) |
$ 2,833 | $462 | $0 | 予防的処置なので保険100%適用 |
内視鏡検査 (施設) |
$19,800 | $1,487 | $0 | 内視鏡検査の請求はなぜかドクターの病院と、検査施設(内視鏡専用の施設らしい)との2通にわかれていた。こちらも予防的処置なので保険100%適用 |
病理検査 | $2,105 | $1,473 | $1,473 | 内視鏡検査後の病理検査 |
再検査 (病院) |
$2,700 | $341 | $341 | 超音波検査 |
再検査 (施設) |
$17,363 | $10,662 | $2,564 | このあたりで免責額に届いたらしく、自己負担の割合が減った |
再検査 (麻酔) |
$2,241 | $719 | $72 | 麻酔費用は別に請求された |
CT検査 | $968 | $489 | $49 | |
MRI検査 | $16,668 | $9,027 | $0 | 自己負担額の上限に届いたらしく、自己負担額が$0になった |
事前検査 | $3,205 | $1,852 | $0 | 手術前の検査 |
手術前検査 | $1,885 | $1,124 | $0 | 当日の検査 |
病院の費用 | $156,728 | $36,816 | $0 | 病院や病室の費用。個室に4日間いた。 |
手術 | $10,419 | $7,315 | $0 | 腹腔鏡手術による直腸がん切除 |
麻酔 | $2,048 | $792 | $0 | |
総額 | $271,829 | $90,774 | $5,203 | 診察、薬など、この表に含まれない費用を含んだ額 |
追記:再検査の際、可能であれば腫瘍を取り除く処置を行う予定だったので、費用がかさんだのだと思われる。
こうしてみると、請求額、保険会社認めた額(実際に医療機関に支払われる額)、自己負担の乖離が大きい。
まず請求額は基本的に医療機関の言い値で、病院ごとに請求額は大きく異る。例えば「日米がん格差 「医療の質」と「コスト」の経済学 (アキよしかわ)」には病院ごとの費用のばらつきが例示されている。今回私が手術を受けたのは割と値段の張る病院だったようだ。
次に、医療機関が主張する金額を、保険会社が交渉して適正な額に補正する。ただし、保険会社が認める額もあくまで交渉の結果であり、同じ医療行為だとしても必ずしも同じ金額にはならないようだ。このあたり、日本の保険点数制度の明朗会計に慣れた身としては未だにうまくなじめない。
次に自己負担額が高かったり低かったりするのは、私の入っているHDHP(High Deductible Health Plan - 高免責医療プランとでも訳すのだろうか)というプランの性質による。このプランでは、ある一定額までは医療費は患者の全額自己負担となる。この額を超えると大部分(私の場合90%)が保険で賄われ、さらに自己負担上限に達すると全額保険で支払われる。そんなわけで治療の初期には全額自己負担になり、後半では自己負担はゼロになる。HDHPではさらに免税で医療費をある程度の額まで支払う仕組み(HSA)もあり、実際の負担感はさらに上の表から感じられるものより低い。
追記:医療費は高いが代わりに(?)サービス面は非常に高かった。病室はトイレ・シャワー付きの完全個室の部屋(写真)で壁掛けテレビとiPadがついていた。
食事はルームサービスで好きなときに好きなものを注文できる(ただし状況により食べて良いものは指導される)。
治療について
最初にも書いたとおり、私の場合初期に発見されたために一度の手術で治療を終える事ができた。もしステージが進んでいれば他の治療も受けることになり、身体的な負担は大きく増えただろうし、上記の治療費用も遥かに大きなものになっただろう。
追記:4日で退院したのは予想していたこととはいえ大変だった。帰ってもずっと横になっていて家族にたよりきりだった。一人暮らしだったらどうなっていたかと思うとぞっとする。
治療自体は日本語で読んだ本などと比べる限り、日本で受けるものと大きく差は無いようだ。(ただ本職のお医者さんに聞いたところ、素人にはわかりにくいような違いはあるようだ。)このあたり、大腸がんの治療は標準化がすすんでいる、という面もあるのかもしれないし、私の状況が初期だったから、という面もあるのかも知れない。
日本語でがん治療についてしらべる際に読んだ本は次のようなものだ。
標準治療を強くすすめる本。また、治療以外にどのような検査で有用性が認められているかも解説されている。この本によると大腸癌はがん検診が推奨されるがんの一つで、特に便潜血検査は有用だということだ。
こちらはちょっと古いが、わかりやすかった。2019年版の医師用のガイドラインも手に入れて読んでみたが、そちらは当然ながらやはり専門家向けで、よく理解できなかった。
こちらも一般向けの標準治療解説。患者向けガイドラインと合わせて読んだ。こちらの方が少し新しいようだ。
治療自体以外の状況については次のような本を読んだ。
これは本文中でも引用したが、ご自身が大腸癌患者となり日米で治療をうけた医療経済学者のアキよしかわ氏がご自身の経験と日米のがん治療の違いをまとめたもの。がん治療の費用は症状や治療法、またアメリカでは医療機関により大きく異なるので、そのような点に関してくわしく知りたい方はこちらの本を参照されることをおすすめする。
患者からみたがん治療については次の2つのまんがを読んだ。
まんが家のひるなま氏が、ご自身の大腸癌の発見から治療までを描かれたまんが。この本の存在を知ったのは手術後だが、いろいろ共感する面も多く、自宅療養中に3回位読んだ。
内田春菊氏ご自身の直腸がんの体験をつづったまんが。検査のようすや、手術後の様子など、私のケースと似ている面が多かった。
まとめ
自分は初期の段階でがんが発見されたため、比較的短い期間に治療を終わらせ日常にもどることができた。「最高のがん治療」にもあるとおり、大腸癌は早期発見により治療可能ながんの一つであり、便潜血などの検査が有効なようだ。私のがんも便潜血検査で発見されたのだが、自分が治療を終える頃にちょうどアメリカで便潜血検査の推奨年齢を引き下げるというニュースがあった。もしこの推奨年齢引き下げが早く行われていれば、自分のがんも更に早期に見つかり内視鏡手術ですんだのかもしれないと思うと、なるべく多くの人に検査を受けてほしいという思いが強くなる。